たくあん漬け

 山の紅葉が里に降りてきて、住宅地の庭木も色づき始めた。だいぶ萎れてきた畑だが、大根や蕪はいまだに黄緑色の葉っぱを土の上に突き出している。雪が降る直前の11月中旬ごろが大根の収穫時期だ。この地方では、そこから3月まで雪に埋もれた生活となる。この大根を冬の間の保存食にする工夫が「たくあん漬け」だ。


 食品の保存の基本は脱水だ。水がなければ微生物が繁殖できないからだ。塩を使って脱水すれば塩漬けとなる。しかし、かつて塩も貴重品だった。水分の多い大根をそのまま塩漬けにするのはコストが嵩んだ。かといって11月に収穫できる野菜などほかにそう多くない。そこで、日本海から吹き付ける冷たく厳しい風を逆手にとって、それでいったん大根を干す。そしてそれから大根を塩で漬け込む。そうすることで貴重な塩を節約して、冬の間の食料を確保した。それがたくあん漬けだ。


 沢庵和尚。この工夫を考案したと伝えられる。理不尽に行き過ぎた粛正にたてついて、この地に流された。そしてそのときに、この地の人々と生活をともにし、たくあん漬けを編み出した。


 「この、たくあん、美味しいね!」


 この会話の「たくあん」に沢庵和尚の何の衒いも感じられない。偉人列伝に名前を連ねるより、漬物の名前になることのなんと奥ゆかしいことか。


 ちなみに一条工務店のアイ・スマートは全館床暖房だ。たくあん漬けを楽しもうとしたら、これはもう床下パントリーしかないのである。