和紙の畳

 風薫る五月。和室の畳に寝そべって、新緑からこぼれる光に身をゆだねるのは、極上の楽しみだ。


 一条工務店のアイスマートの和室に使われる畳は、いぐさではない。和紙の畳だ。床暖房からの放射熱を妨げるので、伝統的な分厚い畳は使えないからだ。


 江戸時代には全国的に広まった和紙の製造だが、戦国時代は、高付加価値を生む美濃の特産品だった。紙問屋が立ち並ぶ長良川沿いの町には、紙粉による火災が延焼しないようにと、うだつと呼ばれる防火壁が立ち並ぶ。




 この長良川の上流に板取川がある。川のいたるところに湧き水がある清流だ。本美濃紙は薄く光の透過性がいいので、障子やあかりに使われた。その使い道から、異物があるととても目立つ。だから清流で徹底的に異物を取り除いて製造した。それがコウゾの寒ざらしだ。



 この板取川に沿って、美濃和紙の里があった。今は、美濃和紙の里会館があって、美濃和紙の魅力を伝えている。そしてそこに和紙で作った畳も展示されている。




 伝統的な手漉きの美濃和紙。東京オリンピックの表彰状に採用され、すでに納品されている。



 しかし、美濃和紙の原料となるコウゾ、トロロアオイと言った作物を生産する農家は、もはや数えるほどしかなく、そのいずれも高齢化で跡継ぎがいない。伝統的な手漉きの美濃和紙は、絶滅危惧種と言っていい。