夕涼み?

 和室の掃き出し窓に続くウッドデッキがお気に入りの場所だ。ここには半分庇がかかってそこに風鈴が吊るしてある。


 あたりが夕焼け空で真っ赤に染まる。近くの桜の木で鳴いていたアブラゼミが、一匹、また一匹と鳴くのを止め、最後の一匹が鳴き止む頃には、さそり座といて座の間に流れる天の川が浮かび上がる。セミの声に変わって、コオロギの声が聞こえ始める。時折そよぐ風に鳴る風鈴の音色が興を添える。


 日本の夕涼みの由緒正しい在り方のように思う。が、しかし。一条工務店の気密断熱住宅では、夕涼みと言っていいかどうか疑問である。なぜなら、エアコンの効いた室内の方がずっと涼しく快適なのだから。その涼しさを袖にしてウッドデッキで汗を流しているのだから、気密断熱住宅が聞いて呆れる。


 でも、室内に入って窓を閉じたら、虫の音も、遠くを走る夜汽車の音も、さらに遠くの夏祭りの威勢のいい太鼓の音も、ぜんぶ聞こえなくなってしまう。


 「家は性能だけじゃないんですよねー」


 と言っていた一条工務店の営業さんの言葉が思い出される。


 床の間から畳と外構の飛び石ならぬ土間コンクリートを結ぶ動線上に配置したウッドデッキは、思わずそう呼ばずに濡れ縁と言ってしまう。


 近くに渦巻きの蚊取り線香を焚いて、縁側に座って夜空を見上げる。夏の大三角の間を縫ってすうっと一筋の流れ星。今年はじめてウマオイの声を聞いた。


 まもなくお盆がやってくる。