天井埋め込みスピーカーと加齢性難聴

 秋はあっというまに通り抜けてゆく。遠く見える山の頂が色づいたと思っていたら、もう街路樹がすっかり紅葉している。初冠雪の知らせもそう遠くないことだろう。


 今夜は雨が降っている。一条工務店のアイ・スマートは、気密性がいいので遮音性もいい。でも、今では住み始めた頃には、わからなかった雨音も、わかるようになった。ぽつぽつと言う音ではなく、その雨音が断熱性のいい玄関ドアに共鳴して、きゅんきゅんという響きになるので、わかるのだ。


 さて、そのアイ・スマートだが、ファンの音がうるさい。二十四時間換気のファンの風切り音だ。アイ・スマートのせいではないが、冷蔵庫や食洗器もうるさい。田園に隣接する閑静な住宅街だけに、外から帰宅するときに一番それを実感する。まるで工場の中に入ったかのような感覚だ。中にいれば、だんだん慣れて、少しは気にならなくなるのだが。


 戸建て住宅を取得するのに、長く使わないとモトが取れないということで、加齢についてのことも調べた。


 誰でも年をとると耳が遠くなる。加齢性難聴である。加齢性難聴を少しでも遅らせるには、静寂な環境で耳を澄ますトレーニングをすることが大切だ。徐々に高音域から聞こえなくなってくる。だから、低音域が出ないスピーカーだと、必要以上に音量を大きくし、難聴を進めてしまう恐れがある。


 それに加えて加齢性難聴ではリクルートメント現象というのがある。小さい音は聞こえないくせに、大きい音はうるさく感じるというやつである。


 加齢性難聴のお年寄りには女性のような高周波より、男性のような低周波でゆっくりと言葉を区切って話すのが良い。聞こえないからと、甲高い声を出すと、さきのリクルートメント現象でお年寄りにとってはうるさいばかりである。ついにはめんどくさくなって聞こえていないのに聞こえたふりをしてわかったと言ってしまい、あとで言った言わないで揉めることになる。ところが湯沸かし器の「お風呂が沸きました!」にしろ、コンロの「右コンロ点火しました!」にしろ、カーナビにしろ、なぜか音声ガイダンスは女性の高周波の声が多く、お年寄りにはやさしくない。


 一条工務店のアイ・スマートの天井埋め込みスピーカーはJBL製で、サブウーファーがテレビボードの戸棚のひとつに組み込まれる。低音がそこそこ響くのでスマホの音よりは、ずっと耳に優しい。ただ、5.1chサラウンドスピーカーなので、スピーカーが設置してあるリビングの定位置に座って聞く分には臨場感があっていいのだが、その定位置を離れた途端、音が濁ってしまう。間取り設計の段階では、不勉強でそこまで予想できなかった。


 低音は耳で聞くというより、体で感じるものなので、Bose製のサブウーファーのように直接床を振動させるタイプの方がより低音を感じる。アイ・スマートは木造建築なので、そのタイプのサブウーファーは、家全体がスピーカーのように響く。


 間取りを検討していた頃は、加齢性難聴を遅らせるのに、天井埋め込みスピーカーを奮発しようかと考えたぐらいで、木造建築の音の響きまでイメージできなかった。もうちょっと勉強と検討する時間があって、予算が取れたなら、リビングで座って聞くことよりも、生活動線にあわせた音響設計を取り入れたかもしれない。