住宅躯体(くたい)は、木か、石か、鉄か?

 結露のないトリプルサッシから外を眺めると、夜のとばりが下りた木が見える。枝の隙間からきらきらと見え隠れするシリウスと、木のてっぺんに横たわるオリオン座に彩られ、もう、これはすっかりクリスマスツリーだ。夜中になれば、オリオン座はパノラマウインドウいっぱいに広がり、明け方には東の窓からしし座流星群が見えるだろう。


 さて、住宅の構造の要となる躯体(くたい)に使われる材料は、大きくみっつ。木材、石材、金属材料、だ。化学の授業を思い出してもらえば、木材は共有結合物質、石材はイオン結合物質、金属は文字通り金属結合物質だ。木材を使えば木造造り、石材を使えばRC造り、金属を使えば軽量鉄骨造りとなる。


 金属は柔らくて熱を通しやすい。金属を硬くするには、共有結合の炭素材料を混ぜるしかない。炭素材料と溶け合うのは鉄だ。それを鋼と言う。でも熱を通しやすいのでヒートブリッジは避けられない。軽量鉄骨造りは本質的に断熱に向かない。それに鉄を作るには大量のコークス(石炭)を使う。二酸化炭素排出という意味では、環境にも優しくない。あとは結露で錆びる。腐食が進むと強度に問題が出る。


 石材はセメントに骨材を混ぜたコンクリート。イオン結合物質は硬いが脆い。だから粘りのある鉄筋を組み合わせたのが鉄筋コンクリート。RC造りだ。でも石は重い。同じ加速度がかかったとき、重いほど大きな力がかかる。関東大震災まで石造りと言えば、レンガ造りだったが、甚大な被害を受けて、鉄筋コンクリートが主流になった。重いので、地盤もそれなりに丈夫でなければならない。さらに細かな穴が開いているとしみ込んだ水が凍って割れる凍害を受けやすい。


 木材は共有結合。丈夫で、軽い。柱で強度を持たせる軸組と、壁で強度を持たせるツーバイがある。一条工務店のアイ・スマートはツーバイシックス。内外ダブル断熱の分厚い断熱材を入れるスペースを作り、躯体の強度を増す。木材の弱点は、虫害だろう。アイ・スマートはしっかり圧入防蟻処理した木材を使う。その分、ちょっとお高い。


 共有結合の材料には樹脂もある。が、樹脂を躯体にした住宅というのはあまり聞かない。既存の合成樹脂で十分な強度を出そうとすると、炭素繊維などを混ぜる必要があるからだ。FRPと言われ、航空機などの躯体に使われ始めているが、一般の住宅に使うには、ちょっと高すぎるかもしれない。


 石炭、石油、天然ガスから、樹脂を作ったとしても、生産性を上げるため、できるだけ早く合成したいから、その分子の長さはたかが知れている。その点、天然の木材は、ゆっくりと成長した分、分子の長さも長い。ドイツトウヒやエゾマツなど、寒い地方の針葉樹はそれこそゆっくり成長し、樹齢も200年以上と長い。そんな貴重な木材の年輪の目の詰まった北に面した部分だけ使ったら、それはそれは上等な木造建築になるだろう。


 でも、家を建てるまで200年も待てる人は、まあ、いないだろう。アイ・スマートの木材はもっと南の成長の早い安い木材だ。でないと、住宅の発注に間に合わない。寒い地方の針葉樹を使うとしても、高級なバイオリンとかせいぜいそんなものだろう。


 寒い地方の針葉樹は、やっぱり、クリスマスツリーが似合う。あとひと月もすれば、クリスマスだ。アイム、ドリーリーミン、オブ、ア、ホワイト、クリスマス、ジャスト、、、♪