気密断熱住宅で学んだ熱伝導を、「半熟」ゆでたまごに応用

 あ、やってしまった。


 冷蔵庫の中を覗き込んで、そう思う。こないだ買ったばかりだったのを忘れて、また卵を買ってしまったのだ。これは、卵の消費スピードを上げねばなるまい。当面の朝食は、卵料理と決まった。


 かといって朝っぱらからなかなか手間もかけられない。仕事も料理も、段取り9割である。フライパンにしく油を探したり、割った卵を入れるボウルを準備したり、料理したあとのフライパンの手入れなど考えたら、焼くだけとは言っても、目玉焼きはちょっと遠慮したい。


 やはりここは、鍋だけでできるゆで卵であろう。洋食なら、固ゆでゆで卵だが、和食だったら、半熟ゆで卵につゆをかけて食べたい。


 細かいことはさておき、半熟ゆで卵を作るには、白身を80度以上にし、黄身を65度以下に保てばいいのだ。つまり温泉卵の逆をやればいい。



 まず、茹でた卵を取り出すざると冷却用のボウルを流しに準備。


 次に、鍋に卵が沈むぐらいの水を張って加熱。卵はああ見えて殻に細かい穴が開いているから、できれば浄水器の水を使った方がいい。小鍋でIHを使って5分と言ったところだろうか。最後は、IHを強火にしてぼこぼこの沸騰状態にする。100度をキープ。塩を入れて沸点が下がるといやなので、塩は入れない。


 冷蔵庫から卵を取り出す。ここからは、スピード勝負。黄身が偏らないよう机の上でぐるぐる回して、すぐにざるで鍋に入れる。タイマー7分。


 冷蔵庫から取り出した卵の温度は、5℃。ずっと冷蔵庫にしまってあった卵なら、黄身の温度も5℃と考えていい。冷蔵庫から取り出して、しばらく置くと、室温で温度がぶれてしまい、卵の温度制御が甘くなる。


 鍋に入れたとき、卵の表面温度は、100度。黄身の中心温度は5℃。卵の中は、対流が起きないので、熱拡散による熱伝導だ。フーリエの法則によって温度勾配にしたがって熱移動が起きる。境界条件を指定した有限熱拡散だ。気密断熱の住宅で、熱伝導を勉強した人なら、熱伝導の理論が頭の片隅に残っていることだろう。


 ぼこぼこと沸騰するお湯のなかで踊るゆで卵を見ると、ゆで卵の殻から、黄身に熱が伝わっていく様子が、浮かんでくる。あちこちのサイトでみた、夏場の暑い外気温とエアコンで涼しい室温の、温度差があるときの、トリプルサッシの熱伝導のイメージだ。


 7分たったら、ざるで卵を取り出し、すぐさま水を張ったボウルの中へ。流水で一気に卵の表面を20℃ぐらいに下げる。すでに黄身の外側の部分と白身の内側の部分が60℃になっているはずだ。卵の表面を20℃にしても白身の真ん中の部分は90℃ぐらいになっているから、その余熱で、黄身の外側の部分と白身の内側の部分が65℃ぐらいまで上昇するだろう。


 手で触れる温度になったら、殻を外してさらに水で冷却する。黄身の外側の部分と白身の内側の部分の最大到達温度を65℃にする。これが「半熟」ゆでたまごの極意だ。


 殻を剥いている段階で、ぷにょぷにょの感覚が指先から伝わってくる。この弾力性の乏しい触り心地。半熟ゆでたまごの出来栄えが想像される。


 器に、半熟卵を入れる。箸で割る。とろ~り、黄身の半熟ゆで卵だ。半熟ゆで卵は、和食にあう。塩より、めんつゆなどをかけて食べる方が好きだ。買いすぎた卵を消費するまで、しばらく、いろいろな食べ方を試すとしよう。


 住宅の断熱も、半熟ゆで卵も、どちらも熱伝導の工夫次第だ。熱の伝わり方の理解を深めるのに、机上の理屈ばかりでなく、ゆでたまごをいろいろ試して、直感的なイメージを持つのもいいかもしれない。