漬物と床下パントリー

 今朝から青空が広がっている。心なしか立ち木の落とす影が少し長くなり、太陽の角度が浅くなったのがわかる。それでも、寒冷地地域区分3とはいっても、正午にもなれば外気温は30度に届く。室内も28度を超え、エアコンを使う。


 床下パントリーの温度は、正午近くでも23度。もちろん相対湿度は80%と高いが、ひんやりと涼しい。洞窟の中のようなものだ。


 ここに漬物を置く。


 なすときゅうりを買い込む。さすがに木桶というわけにはいかず、プラスチックの漬物容器を入念に洗い、ホワイトリカーでアルコール消毒する。なすでもきゅうりでも塩分濃度は10%がひとつの目安。買ってきた野菜をはかりに乗せ、その重さをスマートスピーカーに尋ねれば、何グラムの塩が要るのか、音声で答えてくれる。


 なすはしば漬けにする。紫葉漬けと書く。平安時代からの知恵だ。赤紫蘇が手に入らなかったので、梅漬け用の赤紫蘇梅酢で代用。来年は、赤紫蘇を植え付けるところからやろう。赤紫蘇に含まれるアントシアニンという色素が、発酵が進み酸味が増すにしたがって鮮やかな赤に変わる。理科実験で使うリトマス試験紙と同じ役目だ。鮮やかな発色は、正しく発酵した安全の目安だ。香りづけに定番の茗荷を入れた。さて、どうなることやら。しばらくたってからのお楽しみ。


 きゅうりは古漬けにする。古漬けのきゅうりは、食べるときにまた時間をかけて塩抜きする。この塩抜きの加減がまたなかなか難しい。しば漬けにしろきゅうりの古漬けにしろ、ぬか床といっしょで、発酵が進むまではそれなりの時間がかかる。


 なすもきゅうりも、もともと乳酸菌の餌になる糖質が少ない。塩分濃度が濃く、糖質が少ない飢餓状態におかれ、しかも酸性の環境で増殖できる乳酸菌は限られている。細かな話は省くが、野菜由来の乳酸菌は厳しい環境で生き残れるエリートなのだ。だから食べても胃酸にやられず腸まで届く。生きて腸まで届くというキャッチフレーズの乳酸菌は、この手の乳酸菌が多い。もちろん買い込んだなすやきゅうりにどんな乳酸菌がいるのかは天任せである。


 きょうび、漬物といったときは、調味液に漬けた即席漬けを差すことが多い。しかし、本来漬物は乳酸発酵を利用した保存食だ。しかも、野菜由来の腸まで届く乳酸菌は、腸内フローラを活性化し、免疫力を高める。健康にいいこと請け合いだ。ただ、作るのに時間がかかるし、手間がかかる。しかしながら、本物の漬物の味を知らずに、漬物ぎらいになった子供たちも多いと聞く。日本の和食の文化が廃れると思うと、ちょっと寂しい。


 一条工務店のアイ・スマートのダイニングキッチンで、漬物づくりに取り掛かると、仕掛品置き場に困る。そのまま1日寝かせるなどの作業が多い上、最低1キログラムぐらいは野菜を扱うから、すぐに場所が足らなくなるのだ。狭いスペースとなんとかやりくりし、仕掛品で占領されたダイニングテーブルの片隅で、肩身の狭い思いをしながら食事をし、なんとか漬物容器を床下パントリーにしまい込む。


 あとは招かざるカビが来ないよう目を光らせて、見えない乳酸菌の飼育である。いったん仕込んでしまうと、外気温や室温より、床下パントリーの温度湿度が気になるのだから面白いものだ。奥が深いから、手間と時間を惜しまないというなら、夏休みの自由研究にして子供といっしょに楽しむのもいいかもしれない。