弾道ミサイルが着弾したら・・・

 朝、目覚める。空は青い。小春日和になりそうだ。色づいていた庭の植栽も、だいぶ葉っぱが落ちてしまった。


 「雪が来るなあ、雪を迎える準備をしなくちゃ」


 と、ひとりごちていると、たまたたサイレントモードにし忘れていてケータイがけたたましく鳴り騒いだ。J-ALERT(ジェイアラート)だ。ミサイルが着弾するかもしれない、とのこと。


 一条工務店のアイ・スマートは、気密性が高いので、戸外の音は聞こえない。以前「熊が出た」と行政の広報車が、さかんに触れ回っていたときも、しばらくあとになって、ご近所から聞いた。今朝は、サイレントモードにし忘れていて、よかった。


 頑丈な建物に移動しろ、と言われても、たぶん、この界隈の住宅地で、一番頑丈なのは、耐震等級3のアイ・スマートだろう。窓から離れろと言われたので、窓から離れ、ダイニングテーブルの陰に身をひそめた。


 弾道ミサイルは、毎秒約3km。ふつうの旅客機の10倍の速さだ。発射され、それを察知し、J-ALERTが発出されるまで数分かかるから、J-ALERTが鳴り騒いでから、着弾するまで、遅くとも数分、下手すれば1分以内だ。何か行動するなら、緊急地震速報と同じ感覚で動かなければ間に合わない。ふつうに考えて、せいぜいやれることは、窓から離れて、部屋の真ん中に移動するぐらいだ。


 着弾の爆風や破片程度なら、トリプルサッシの飛散防止フィルムで、アイ・スマートが守ってくれるかもしれない。


 でも、もし、ほんとうの武力行使で、弾頭に核兵器が搭載されていたら、、、着弾の爆風や破片だけでは済まない。近くの某国のミサイルでも、広島、長崎の三倍近い威力を持つ50ktの核弾頭を搭載できる。


 J-ALERTが鳴り騒いでから、1分後、紫色の閃光が、ぴかっと光る。それから、少し遅れて、どーん、という衝撃波が、家全体を揺さぶる。運が良ければ、アイ・スマートなら倒壊は免れるかもしれない。でも、ゆがんでしまった住宅のドアを、果たして開くことができるかどうか。トリプルサッシの丈夫さが裏目に出て、窓を叩き割って外に出ることもできない。


 運よく、外に出られたとする。紫色の閃光の温度は6000℃。瓦さえ溶かす温度だ。アイ・スマートのガルバリウム鋼板など、ひとたまりもない。ほとんどの木造住宅は、倒壊し、火災が発生する。外にいた人は、熱線があたった側の体半分の皮膚がべろりと向けた状態で、水をもとめて、さまよい歩いている。火がつい服を脱ぎ捨てているから、秋だというのに、みんな素っ裸だ。爆風で電線が引きちぎられ、電気がとまっているから、水も出ない。


 青かった空は、あっというまに真っ暗になり、黒い雨がしとしとと降りだす。その雨が、情け容赦なく、あたりを放射性物質で汚染し、なすすべもなく被爆させられていく。雨は冷たく、どんどん体温を奪われる。なんとか水と食べ物にありついて、しばらく生き延びたとしても、放射線被ばくによって治ることのない下痢が始まる。。。


 。。。こんなこと、もう、絶対にあって欲しくない。


 J-ALERTが鳴り騒いでから、数分過ぎた。窓から見える空は、何事もないように、あいかわらず青いままだった。何も起きなかった。ああ、よかった。


 玄関ドアを開けて、庭に出ると、暮れゆく秋を惜しむようにコスモス、ホトトギス、フジバカマが咲いている。葉の落ちた植栽の枝先には、もう来年の芽がついている。小春日和の青空を見上げながら、この平和がずっと続きますように、と願った。