投票所とヘルプマーク

 参議院選挙。


 投票所が遠い。お年寄りや障碍のある方には、大変だ。人手不足もわかる。投票立会人のなり手不足もわかる。投票所を減らしたい気持ちはわかる。でも、やっぱり、遠い。


 投票所に到着する。地方自治体の職員が、いそいそとやってくる。


 「おひとりですか?」


 と、口早に聞いてくる。


 障碍者を連れているんですけど。靴をスリッパに履き替えるのも時間かかるんですけど。段差も大変なんですけど。と思っているのに、ぜんぜん察してくれない。受付に連れていかれそうになるのを、やっと制す。


 「ふたりです。ちょっと待ってください」


 ヘルプマークが目に入らないのだろうか。地方自治体からもらったものなのに。休日出勤なのはわかる。でも、そのせかされそうな、オーラ、お願いだから、ちょっと控えて。




 車いすが必要な方は、見ただけで配慮が必要とわかる。でも見ただけでは、わからないことだってあるのだ。だからヘルプマークを作って配っているんだよね?


 ヘルプマークの根っこは、人と人とがお互いをいたわる気持ち。障害があるとか、健常であるとか、そういう垣根をつくることじゃない。仕事を早くしたいがために、いたわる気持ちを、うっかり置き忘れると、ヘルプマークは目に入らなくなってしまうのだろう。


 せかされながら、受付にいくと、投票用紙を渡される。何かまくしたてている。口早の上に、女性の高い声だから、聞き取りにくいことこの上ない。何を言ったかわからないけど、聞き返す気力もなくなって、にっこり笑う。マニュアルでしゃべっているだけで、きっと、たいしたことじゃないんだろう、と自分を無理やり納得させる。


 渡された投票用紙とおぼしき紙を見る。字が小さすぎて見えない。かばんから、老眼鏡を取り出そうとするが、荷物置き場もない。うっかり渡された鉛筆を取り落とす。もたもたするな、という声が聞こえるような気がする。


 休日返上で、投票所につめている、地方自治体の職員は、仕事が早く、優秀な方なのだろう。公務員試験を、優秀な成績で突破したに違いない。でも、点数ばかりで、つい人の心の根っこを忘れてしまっていいるような気がする。


 投票所には、政党や人の名前しか書いていない。どこに入れるつもりだったか忘れてしまった。老眼鏡といっしょに、選挙公報を取り出す。


 あれ。


 テストの点数より、日本人の育成を、政策に掲げている政党があるぞ。その政党が小さくたっていい。仕事がただ早い人より、いい仕事とは何かを考えてくれる人が増えたら、もう少し世の中が住みやすくなるかもしれない。今回は、この党にしよう。


 自分の持ち分の一票を投じると、投票立会人にお辞儀をして、投票所を後にした。