フキの佃煮(きゃらぶき)―太陽光エネルギーにぴったり―

 抜けるような青空。梅雨に入る前の、最後の五月晴れ。


 このあたりでは、「ダシ」と呼ばれるナスの浅漬けがある。ナスは植え付けたので、アオナンバンを買いにホームセンターに出かけた。前に、行ったとき、直前のお客さんが買って売り切れて買えなかったからだ。でもお店に人に「今年の入荷はもうありません」と言われてがっかり。


 ことしは連休まで不順な天候が続いたので、野菜の苗は買い控えていた。苗を寒さにあてると、ストレスが残って、野菜の味が落ちるからだ。でも、お客さんの求めに合わせて、お店では、早めに苗を売り出す。早めに買って、屋内に保管しておけばいいのだろうが、一条工務店のアイスマートには、そんな苗の保管所もない。


 また来年かと、諦めて、帰る途中、ご近所さんを見かけたので、挨拶すると、


 「ちょっとフキもってがね?」


 と声をかけられた。案内されるままに行けば、広い敷地にある大きな栗の足元に、フキが茂っている。


 「ご先祖様が植えったもんだけっど、増えでなぁ」


 なるほど、大量に茂っている。ご高齢のご夫妻ふたりでは荷が重い。この人手不足の世の中では、時短料理ばかりがもてはやされる。敷地のフキの増え方と住んでいる人の食べる量のバランスが崩れてしまったのだろう。6月に入ると、フキの中に虫が入る確率が高くなるので、今が旬だ。


 「おしょうしな!」


 とお礼を言って、家に30本ほど持ち帰る。


 最初の手順は、天日干し。ここから太陽エネルギーの利用が始まる。


 ウッドデッキで新聞紙の上に広げたフキの風景は、ウッドデッキというより昭和の縁側と言った方がぴんとくる。半日ほど干して、フキが「へ」の字にしんなりしたら、フキの毛をとる。塩で板摺してもいい。大鍋がなかったら、鍋のサイズ合わせてフキを切る。ネットで検索すると、フライパンを使っているレシピも多い。キッチンが狭いから、大鍋は収納できないのだろう。


 沸騰したお湯に、重曹(炭酸水素ナトリウム=灰のかわり)を入れる。2~5%ぐらいの濃度でだいじょうぶ。これが灰汁(アク)だ。塩で板摺していないときは、さらに2~5%ぐらいになるように塩(塩化ナトリウム)を加える。塩濃度を上げて浸透圧を高める戦略だ。フキを入れて2分ほど茹でて、細胞壁を破壊し、そのまま2時間ほどおく。きれいな水に交換しながら、1晩ほど水にさらす。


 これで灰汁抜きは終わり。灰汁抜きの、本来の意味は、灰(炭酸カリウム)を使った、山菜に含まれる有機酸(シュウ酸やポリフェノールなどのえぐみ)の中和反応だ。アルカリ(灰のアラビア語)が足りないと、苦いし、皮を剥くときに手が真っ黒になる。かといってアルカリが多すぎると、ぐにゃぐにゃになってしまう。灰汁の濃度は、極端に変えない方がよい。


 ネットでは、灰汁を使わない、「灰汁抜き」レシピを見かける。伝言ゲームよろしく、灰汁の意味がすり替わったのだろう。「灰汁でえぐみを抜く」が、灰汁がえぐみを指している。まあ、アルカリを使わず、茹でこぼすだけでも、食中毒しない程度には、有機酸は抜けるのかもしれない。


 皮を剥いて、そのままマヨネーズであえてサラダにするもよし、昔ながらの煮物にするもよし。冷やし中華の具にしてもいい。ちょうど、やはりいただいたヤマウドを酢醤油に漬けてあったので、フキとヤマウドを冷やし中華の具にしたら、さっぱりしておいしかった。


 煮物やサラダは日持ちがしないので、大半は、日持ちのするフキの佃煮(きゃらぶき)にする。


 きゃらぶきにするときは、皮は剥かない。


 だし汁、しょうゆ、みりん、酒、砂糖、このあたりは、味付けなので、好みに応じて分量を変えてよい。ここに灰汁抜きしたフキと赤唐辛子を入れて、煮立たせる。


 ここから弱火で、煮汁がなくなるまで、ときどき混ぜながら弱火で煮る。


 弱火で煮るときは、ガスコンロより、IHコンロがいい。


 IHコンロを使って、晴れている休日の真っ昼間にやる。ソーラーパネルとなら、きゃらぶき作りは、なおさら相性がいい。鍋を混ぜながら、太陽光発電モニターを見ると、売電を示すグリーンランプのまま。なんだか嬉しい♪


 煮汁がなくなるまで、1時間ぐらいはかかる。日没前にそこまでたどりつくよう計画しないと、「売電」ではなく「買電」になってしまう。煮汁がなくなるのに、手早くすることはできない。時短料理ではなく、時長料理だ。手際より計画性が求められる。


 できあがったら冷蔵庫に保存。10日に一度ぐらい、火入れすると長持ちする。


 お子さんのお弁当のつけあわせ、ご飯の友、お酒やビールのおつまみに、季節の一品はいかが?