脱・東京して地方に移住したピアニスト

 このコロナで、テレワークが定着し、脱・東京して地方に移住する人が多いのかと思いきや、東京の日本人人口は、むしろ増加傾向にあるようだ。減っているのは外国人ということだ。ちなみに東京の土地の坪単価は、このあたりの約100倍。ケタ違いも、2ケタ違いである。


 もちろん、脱・東京して地方に移住する日本人もいる。たとえば、ピアニストの福田直樹さんだ。



 自然豊富な地方の田舎は、クリエーターにとって宝の山。生きることに直結する生活が与えてくれる心の豊かさをよく知っている。世界中を飛び回ったピアニストだからこそ、その理解の深さは、半端ではないだろう。


「例えば世界に目を向けると、すべての価値観の中心がお金という国も存在します。仮に、“どうせ買うんだったら高いものを買いたい”から買ったモノと、“本当に良いものを買いたい”と思って買い物をして、その結果として高く買ったモノ。その二つは物質的には同じモノかもしれないけれど、自分の中に確かな満足感が残るのは後者ですよね。 値段よりも品質、さらにそこから得られる豊かな体験に価値を見出し、生活を営んでいるのが山形の人たち。それは音楽を楽しむ姿勢にも共通しています」


 福田さんののこの言葉は、買い物の本質をついていると思う。たとえ、その買い物が高価な住宅であっても、その本質は何ら変わらない。その福田さんが選んだ住宅は、1803年に建てられたとされる茅葺屋根の古民家だ。その住宅を「里乃音」と名づけて脱・東京して地方に移り住んだ。愛用のグランドピアノを設置するのに、床を補強し、音の響きをよくするため、土壁をぶち抜いた。ほとんど木製スピーカーボックスの中に住んでいると言っていい。


 その「里乃音」で福田さんのピアノを聴いていると、宮沢賢治の作品「セロ弾きのゴーシュ」で、チェロの中に放り込まれたねずみの子どものような気分になる。聴いているというより、音に抱かれている、と言った方がしっくりするかもしれない。



 そんな福田さんが、最初で最後の?オリジナル作品集「おはなし」を販売した。



 音の達人が、こだわりぬいて録音したCDだ。拝聴するにも、それなりに敬意をもって臨む。まずは、CDをWindowsメディアプレーヤーで、DLNAサーバーにしたNASに、音質劣化なしのWAV形式でアップロード。こだわりの録音と言っても、CDは、44.1kHz/16bitなので、いわゆるハイレゾ音源ではない。その音源を迎え撃つのは、リビングと、寝室と、洋室の3部屋のオーディオセット。YAMAHA  Music Cast アプリを使って、3部屋同時に鳴らす。


 1番手のリビングには、一条工務店のアイ・スマートのオプション、 JBL社製の天井スピーカー。これを、AVアンプYAMAHA RX602でドライブする。DAコンバータは、バー・ブラウンの2ch・384kHz/32bit対応DAC「PCM5101A」を3基搭載。忘れちゃいけないのは、サラウンド機能はすべてOFF。ソースダイレクトモードで試聴することだ。YAMAHA RX602は、アプリだけでなく、リモコンやボリュームつまみからも操作することができる。


 2番手の寝室には、知る人ぞ知るBOSE社のスピーカー501Z。それをドライブするのは、これまた懐かしのアナログアンプSANSUI AU-α607。もちろん、イコライザはOFF。ソースダイレクトモード。もっとも、それだけではデジタル音源を再生できないので、それをサポートするのは、ネットワークプレーヤYAMAHA NP-S303。DAコンバータは、バーブラウンの192KHz/24bit「DSD1791」。アナログアンプなので、音量はアプリやリモコンからは操作できず、ボリュームつまみを昔ながらに操作する。


 3番手の洋室には、デスクトップオーディオYAMAHA MusicCast 50。コンパクトでスタイリッシュなボディにスピーカーとアンプとを内蔵したPCM 192kHz/24bit。リモコンもつまみもないので、ほぼほぼアプリからの操作だけとなる。


 で、聴き比べた。というより、感じ比べた、と言う方がいいかもしれない。


 第一印象。いずれも、古民家「里乃音」で聴いたライブには遠く及ばない。やはり、ライブに叶うものはないのだろう。そこは妥協して、それぞれの部屋での聴き比べ。好みというのもあるだろうが、BOSE社501Z+SANSUI AU-α607+YAMAHA NP-S303が一番繊細に表現できていたように思う。アイ・スマートのオプション、 JBL社製天井スピーカーをつけると決めたとき、捨てようかとも思ったアナログオーディオセットだったが、捨てずに持ってきてよかった。それから印象的だったのは、YAMAHA RX602+天井スピーカーを、5.1サラウンドモードにすると、決定的に音が濁るということだ。本当にいい音は、下手にごまかさない方がいいということだろう。




 古民家「里乃音」は、築200年以上。気密も、断熱も、へったくれもない。しかし、ショパンが活躍した時代から、そこにある建物と思えば、そこで奏でられるピアノの音のなんとおくゆかしいことか。甘くけだるく、ときに鋭いピアノの音に包まれて、さもロマン派の時代に、タイムスリップしたかのような錯覚に陥る。福田さんによれば、ピアニストは、情緒を伝えるショパン派と、テクニックをみせつけるリスト派に分かれるのだと言う。世界的にはリスト派が多いが、日本人にはショパン派が多いそうだ。そんなショパン派の福田さんに、古民家は寒くないですか?と聞くのは、野暮というものだろう。


 追伸、YAMAHA RX602は、ソースダイレクトモードにするとディスプレイの明かりを落として音に集中させてくれます。わかってるねー♪YAMAHA!ちなみに、一番、音のディティールが表現されているのは、「おはなし」の中の、16番「羽黒五重塔」だと思います。福田さんのタッチだぁ・・・って思います。