冷蔵庫の扉、開きますか?

 夜になると、少しひんやりとしてくる。


 自転車をこいで、コンビニに向かう。住宅のわきをすりぬけると、夜を背景に白や橙の窓の明かりが、流れていく。生活が感じられてほっとする。


 近くを流れる川沿いに出る。さらさらと流れるせせらぎの音に、ひょろひょろひょろとカジカガエルの鳴き声がこだまする。ナトリウムランプで照らされた橋を渡る。この橋が、街の外れだ。川の上流は、黒々とした漆黒の闇で、吸い込まれそうになる。ここから先は、入ってくるなと、人外の何かが伝えてくる。


 そこにコンビニがある。店内に入る。蛍光灯が眩しい。チャイムが鳴って、いらっしゃいませーとあいさつされる。こんばんわと言いながら、冷凍ショーケースへ行く。ア・イ・ス。このコロナで記録した体重の増加が、ちらりと脳裏をかすめる。メロンにしようかマンゴーにしようか。えーい、大人買いだ、まだ冷凍庫にスペースがあったはずだ。急いでレジに行き、会計を済ませる。保冷剤を詰め込んだ保冷バッグに、買ったアイスを入れて、ジッパーを閉める。


 頭の中がアイス一色になってしまうと、もう夜の風情もお構いなしだ。一目散に家に飛んで帰る。冷凍庫の引き出しを開け、アイスをしまいこむ。ついでに買った清涼飲料をしまおうと、冷蔵庫の扉を開ける。


 ごん。


 また、やってしまった。幸い壁のクロスに凹みはない。


 間取りを考えるとき、もちろん冷蔵庫の置き場は意識した。部屋のあいだのドアとドアの干渉がないことも確認した。でも、冷蔵庫のドアの開きが、どこに干渉するかまで考えなかった。キッチンボードの扉も、気をつけないと冷蔵庫の側面を強打する。


 冷蔵庫が活躍するのは、アイスの季節ばかりではない。吹雪に閉ざされて買い出しに行けないときも重宝する。そして、リウマチの治療に使う生物学的製剤の保管にも、必須アイテムだ。コロナのワクチンに限らず、バイオ製剤は、温度管理がシビアなのだ。


 冷蔵庫が家庭に普及してまだ半世紀と少しなのに、もはや冷蔵庫のない生活は、ちょっと現実味がない。住宅の間取りを設計するときに、冷蔵庫の扉も確かめておけばよかった。冷蔵庫は、左開きか、右開きか、観音開きか、どこまで開くのか。おおざっぱでも調べておけばよかった。


 建ててしまった今、もう間取りは直せない。冷蔵庫の扉を開くときには、乱暴に開けず、壁にぶつけないよう気をつけよう。