古民家

 人が作ったものはいずれその役目を終えてゴミになる。しかしゴミを出さずに人が生きていくことはできない。住宅も例外ではない。住宅の寿命を延ばせば、空き家のゴミが減る。地球に優しく次世代の負担も少ない。


 さて全国的に過疎化が進む中、つくばエクスプレス沿線地域は踏みとどまっている。首都圏へのアクセスの良さと求めやすい地価が、子育て世代の新築戸建てを呼び込んでいるのだろう。


 そのつくばエクスプレスのつくば駅をからそんなに遠くないところにさくら民家園という施設がある。つくば市が伝統的な古民家を保存し公開しているのである。


 築三百年を移築したと言われるその古民家は、柱も床も煙で燻されて黒光りしている。




「毎日囲炉裏に火を入れてます、そうしないと虫にやられてしまいますから」


 そう言うのは、その古民家の維持管理している方だ。自然はさまざまな恵みを与えてくれるが、住まいにとって自然はせめぎあう相手だ。古民家は住んでいる人が毎日囲炉裏に火を入れることで維持されてきた。


 一条工務店のアイスマートはツーバイシックスの木造建築だ。自然とせめぎあう点では、古民家もツーバイシックスも同じだ。古民家と違って毎日囲炉裏で燻蒸できない一条工務店のツーバイシックス材には予め薬剤を加圧注入してある。


 ホームセンターの資材館にいくと薬剤が加圧注入された木材を見ることができる。明るい色の木材に較べ、薬剤が加圧注入された木材は暗い緑青色でお世辞もきれいとは言えない。しかも加圧注入された木材の値段は倍に跳ね上がる。


 極端な言い方をすれば、加圧注入しない木材を使えば、住宅の値段は半額になる。ただし、その値切った分だけ、いずれ空き家の処分費用として次世代にのしかかることになるだろう。

大失敗

 「一条工務店に入社してから、資格を取るのにめっちゃ勉強しました。あれだけ勉強したのは、あれで最初で最後でしょう」


 一級建築士は国土交通大臣が免許を交付する。一方、二級建築士は各都道府県知事が免許を交付する。机の隅に置かれた自動車免許のようなカード型の免状には確かに国土交通大臣の角印がある。


 「ふつうね、建築科は卒業制作か、卒業設計のどっちかなんですよ。でもウチの大学ときたら両方必修でね。卒業するとき狭いアパートが模型だらけになりました」


 と、言いながらきれいにカラー印刷された設計図を、ぼいっと机の傍らに押しやる。おもむろにレイアウト用紙を取り出し、新しい間取りをシャープペンで描き始める。迷いのないシャープペンの動きが確かな設計力を証明している。ふと気がつくと爪がきれいに磨いてある。お客さんの前で図面を描くことを意識しているのかもしれない。


 「心が折れそうになることもあります。失敗もずいぶんやらかしました」


 子育て奮闘中の若い建築士は、笑いながら正直に吐露する。たとえばどんな?と恐る恐る聞いてみる。


 「仏壇があるっていうんで、仏間を設計したんですけど、引き渡したら、肝心のその仏壇が入らなかったんです」


 聞いてる方も冷や汗が出そうな話である。それでどうしたんですか?と続けて聞く。


 「仏間の柱をぶった切って仏壇入れました。あ、もちろん、ちゃんと構造計算しなおして問題ないことを確認してからですよ」


 他人様のお宅の話なのだが、それでもほっと胸を撫でおろす。


 建築士の肩書きは勉強すればなんとかなるのかもしれないが、こういう経験は努力したからといって手に入るものではないし、積極的に経験すべきものでもない。たまたまであったそういう幾多の経験を前向きにとらえ、それをばねにしていく姿勢が彼のたくましさを醸し出しているのだな、と思った。

あこがれ

 「見てきます?」と屈託のない笑顔で現場に招き入れてくれた若い大工。
無口でこちらから聞かなければ、あとは何も喋らない。


 「なんで大工になったの?」


の問いにぽつりぽつりと語りだす。


 「俺ンちのリフォームしてくれた大工がカッコ良くてさ。その大工にあこがれたんスよ。あ、別に変な意味じゃなくて。そんで高校卒業するとき、たまたま募集してた一条工務店に就職したわけ。一条工務店って将来人手不足にならないようにって、プロパー大工を育ててるんですよ。俺もそのひとり」


 ぶっきらぼうに応えているあいだも、手は休めない。


「ほら、俺若いでしょ?だから未熟なんじゃないかって思われるときがあって」


 すこし雲行きが怪しい。すかさず


「大工は年じゃないよね?腕だよね?」


 と返す。するとこちらを振り返り


「そうなんス!」


 と満足そうににっこり笑った。