外出せずの夜桜見物

 「紅梅の 隣もちけり 草の庵」とは、東京根岸の草庵から隣の家の梅を詠んだ正岡子規の俳句だ。


 狭いながらも庭を設けたとは言え、3LKの子規庵と五十歩百歩の広さでは、とてもとても桜の木を植えるスペースは無い。しかし幸いなことに、和室から続くウッドデッキの向こうに隣の家の大きな桜の木が見える。


 今か今かと待ちわびてきたその桜の花の蕾が、昨日の陽気でほころびた。


 しかし、うって変わって今朝の冷たい雨。桜は足踏み状態。またしても床暖房のお世話になった。


 暗くなってふとまた桜が気になって、掃き出し窓を開け、ウッドデッキに一歩踏み出した。


 土の香りのする冷たい空気がすうっと体を包む。見ると暖色のガーデンライトに照らされた隣の家の桜がぼんやりと闇夜に浮かび上がっている。朝の雨は雪に変わり、濡れそぼった桜の木の幹は、しっとりと黒く、それがまた落ち着いた雰囲気を醸し出す。横山大観のかがり火に照らされた夜桜もかくありなんと、うっとりと眺める。正岡子規の真似事をしてみたくなる。


 「夜桜の 隣もちけり アイスマート」


 うーん、アイスマートだのハイドロテクトだのカタカナ語は、なんだか新しいテクノロジーって感じがするものの、音節が多すぎてどうにも大和言葉となじみが悪い。


 「夜桜の 隣もちけり 雪の家」


 こっちの方が、まだ風情があっていいか。