冷蔵庫の断熱材

 控えめなワレモコウの赤やオミナエシの黄色が庭を彩るようになると、より一層秋の気配を感じる。秋の七草にもいくつかバージョンがあって、万葉バージョン、1935バージョン、1980バージョンとある。オミナエシは、すべてのバージョンで秋の七草に選ばれているが、ワレモコウは1980バージョンの秋の七草で、秋の七草としては新顔だ。


 今朝は、だいぶひんやり。予想最高気温は、22℃。それでも室内温度は26℃を保っている。特にエアコンに頼る温度ではない。秋の日はつるべ落としというが、日照時間が短くなるにつれて、ソーラーパネルの発電量も落ちている。暑いときのエアコンは、日照があるうちに使ったので、エアコンに使う電気エネルギーは、地産地消だ。夏場に購入する電気エネルギーは、基本料金をのぞいて、主に夜間の電力消費だ。


 終夜運転で電力消費する家電と言えば、やはり冷蔵庫だろう。冷蔵庫の消費電力は、冷蔵庫の壁の断熱性能が大きく影響する。 たとえば、Panasonic の冷蔵庫に使われる真空断熱材のU-Vacuaの熱伝導率は、 0.0012以下だ。



 U-Vacuaと、住宅用の断熱材のロックウールの熱伝導率0.038と比べると、一桁以上断熱性が高い。一条工務店のアイ・スマートの断熱材のウレタンフォームの熱伝導率0.025と比べても圧倒的だ。



 もちろん、同じ断熱材でも、厚みを増せば断熱性能は上がる。でも冷蔵庫の壁の厚みを増すと、庫内の容量が減ってしまうのだ。Panasonicの冷蔵庫で使われるU-Vacuaの厚みは4mmと極薄だ。これがもし、一条工務店のアイ・スマートのように厚み190mmにしてしまったら、冷蔵庫内の容積がなくなってしまう。実際、アイ・スマートの断熱性能はいいものの、分厚い壁のせいで、少し部屋が狭くなる。


 じゃあ、U-Vacuaを住宅に使えばいいではないか、と思うだろう。当然、開発者もそう思っている。でも、まず、課題がコスト。冷蔵庫に使うのと、住宅に使うのでは、使う材料の量が違う。高断熱の材料を使えば、冷蔵庫でも値段が高くなるのに、住宅ではなおさらだ。調べてみたら、面白いエピソードがあった。


 「ところが、実際に建材として使ってみようとすると、工務店の大工さんたちが予想以上に無造作に釘打ちをしていることが判明しました。」


https://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201003panasonic/pdf/panasonic_f.pdf


 真空断熱している材料に、釘を打たれたら、元も子もない。開発者も、手をこまねいていない。それで開発されたのが、真空断熱材の気密室を細かく区切った「Chip-Vacua」。


 このような、高性能断熱材料は、冷蔵庫だけでなく、給湯器など、さまざまなところで活躍している。たとえば、一条工務店のアイ・スマートの基礎工事では、床暖房のための配管は、分厚い断熱材にくるまれている。


 それと、断熱で、忘れていけないのが、温度差。いくら断熱性能が上がっても、温度差が倍になれば、熱の移動も倍になる。炊き上げ温度を生活温度帯にしたエコワンは、炊き上げ温度を90度ぐらいまで上げるエコキュートに較べて、温度差が小さくなるよう工夫されている。エコワンは、断熱材だけでなくトータル設計として、省エネを目指しているのがわかる。


 ノンフロンタイプの硬質ウレタンフォームは、フロンタイプの硬質ウレタンフォームに較べて、断熱性能が劣る。でも環境を破壊してまで、断熱性能を上げることはできない。断熱材が、環境対応材料へと、舵を切ったのは、オゾン層破壊が顕在化した1990年代にさかのぼる。住宅分野では、厚みで断熱性能が稼げるグラスウールや発泡スチロール、硬質ウレタンフォームが、まだまだ主流だ。値段などトータルバランスを考えれば、仕方がないのかもしれない。


 断熱性能は、住宅の壁や窓だけの話ではない。住宅を新築するとなると、それはおおごとだ。でも、冷蔵庫を買い替えるときに、ちょっと、冷蔵庫の壁面の断熱性能に目をやって、それで、もし、それがなんとか払える値段ならば、それだけでも地球に優しくすることができると思う。