数字のトリックと肩書き


 「日本の省エネルギー基準の約8倍もの気密性」


 いやあ、うまいものだ。数字のトリックを使った心理的誘導である。試験の点数や、日用品のお値段など、1点や1円の差にほとんど意味はないのに、1点点数があがると、成績があがったとぬか喜びし、1円値引きがあると、お得な気分になる。


 数字にしてしまえば、誰でも簡単に大小を比べることができるからだ。ランキングで序列の一番にくるよう仕掛けられると、なんだか凄いことのような気がしてくる。 



 「省エネ7冠」「最高賞である「経済産業大臣賞」を受賞」


 いやあ、こちらもうまいねえ。肩書きを使った心理的誘導である。第三者からの評価と称して肩書を使うのである。政治家の「専門家の意見を聞いて」のセリフや、あるいは「大学の教授が言った」や、「有名ブランド」みたいな、責任転嫁されているのに、なぜか安心感が沸いてくる。自分で目利きする自信がないと、余計についつい肩書に依存してしまう。


 しかも7とか最高(=ランキング1位)とか数字のトリックとの合わせ技だ。


 我が家の気密測定報告のC値は0.66。


 グラフがきちんと掲載された報告書を見て、なるほど、こりゃ、実質的なC値は1ぐらいじゃないの?と思った。グラフのプロット点の測定精度が、小数点以下二ケタにとうてい及ばないからだ。くだんの、一条工務店のホームページにも、「平均」とか「約」とか、ぬかりなく言い訳できるよう書いてある。実測値には誤差があり、ばらつきがある。平均値だけでなく、ばらつきにも気を配るのが、量産品の品質管理の基本だ。まして設計に品質を作りこむ品質保証では、基本設計が大きな役割を果たす。一条ルールで知られる制約の多さは、量産品の品質保証を担保するためだろう。


 さて、気密測定は、ポンプで住宅の空気を抜いて、圧力を下げたときに、どれくらいの流速で空気が入ってくるかを測定し、圧力差と流速の関係から、総相当隙間面積を求め、建物外皮の実質床面積で割って、C値とする。詳細は省略するが、いわゆるベルヌーイの定理の応用だ。



 じゃあ、現実に生活していて、室内と室外の圧力差はどれくらい生じるの?ということである。圧力差がなければ、風は入ってこない理屈だ。


 日本の古民家のような風通しの良い住宅では、風の当たる面と、風の抜ける面との圧力差で風通しを実現する。現代の生活では、そこまで開け放しの生活はあまりないだろうから、圧力差が生じる主な要因は、温度による空気の密度の違いと、換気システムのファンによる強制的な換気だ。結局のところ、何のための気密かと言えば、温めた空気が外に逃げなければいいわけで、C値と換気システムの熱交換効率のバランスが大事ということになる。



 まあ、バランスよくぬかりなくやってますね。


 実際、気密測定のときは、トイレ、キッチン、バスのファンを目張りしてるし、暖かい空気は天井からに集まるのに、床面積で割ってどうするん?とか突っ込みどころ満載だ。また一条工務店のアイ・スマートでは、実生活でトイレ、キッチン、バスのファンが開放された状態でも、玄関ドアを開けるときは、かなり重たい。これ以上気密にしたら、お年寄りや障碍者の要る家では、玄関ドアを電動の自動ドアにしたくなるだろう。


 我が家のC値の0.66は、三回測定の平均。計算しなおすと、0.6666666…だから、実際の測定精度がそこまでないことには目をつぶって、仮に有効数字二ケタとしても四捨五入したら、0.67でしょう?と現実には意味のない数字に突っ込みを入れて、数字に心理誘導されいる自分に気づき、しかも些細な粗さがしをしている自分に嫌悪し、思わず苦笑いをしているのであった。


 はい、冬暖かく、夏涼しいです。ありがとうございます。