壁付けL型キッチン

 朝起きて、お花に水をやりに玄関ドアを開けて外に出る。ひんやりとした空気。近くを流れる河川敷から聞こえるカッコウの声。真っ白な花から漂うクチナシの香り。アイ・スマートの防音性能も断熱性能もありがたいが、やはり外は景色はすがすがしい。同じく外に出てきたお隣さんに、おはよう、と声掛けする。ちょっと待ってと言われて、言われるがままに待っていると、とってきたフキを一束いただいた。時をずらして、反対側のお隣さんからヤマウドを一つかみいただいた。


 フキやヤマウドに限らず、ワラビだの、ゼンマイだの山菜と言うのは、食べるまで手間がかかる。というより手間をかけないと食べられないのだ。さらに言えば、手間をかけて食べられるようにする先人の知恵を料理と言うのだろう。


 まず皮をむく場所がいる。フキにしろヤマウドにしろ、むいた皮が大量に出る。あく抜きするのにバットに並べて重曹を振りかける。そのまま数時間。下づくりのしかかり品が、ダイニングテーブルの上まで押し寄せて、場所がいくらあっても足りない。フローリングより、古民家の土間が羨ましくさえ感じる。


 ダイニングキッチンの間取りは、ダイニングーテーブルを囲むように壁付けL型キッチンにして、左袖に冷蔵庫、右袖に一間半の長袖のカップボードを接続した。作業性を良くして、狭い空間を有効活用するためだ。ガスコンロに続くカップボードのテーブルには、湯沸かしポット、オーブンレンジ、炊飯器が並んでいる。しかかり品を置く場所は、ダイニングテーブルしかない。これが対面キッチンやアイランドキッチンだったら、どうなっていたことかと思う。


 対面式のキッチンを選ぶ方の希望は、「家族の様子を見守りたい」「料理をしながらテレビを観たい」だそうだ。誰かひとりがこじんまりと作業するなら、そういう選択もあるだろう。ひとりがまだ下づくりの段階の山菜をゆでこぼしているとなりで、もうひとりがとりあえずお昼のチャーハンを炒めるなどという、複数での作業は、壁付けL型キッチンの方が断然やりやすい。シンクもふたつあった方がよかったと思えるぐらいだ。


 ちなみにダイニングテーブルの椅子は回転式を選んだ。椅子を回して立つだけで、冷蔵庫やシンクに手が届く。ダイニングテーブルを囲むようにレイアウトされたL型キッチンは、高齢者など歩行が困難な人にも優しい。


 L型キッチンは窓とも相性がいい。東側に向いたシンクの窓からは、日の出とともに明るい朝日が差し込み、ダイニングテーブルの椅子に腰かけると、北側の窓から水を張った田んぼに映り込んだ沈む夕日の景色を楽しむことができる。


 冷蔵庫からきゃらぶきを取り出してご飯を食べる。あんなに場所を広げて、何時間もかけて下づくりした山菜だが、食べるのはほんの一瞬だ。美味しさとは、手間なのだ、とつくづく実感する。何かと忙しい世の中で、時短料理の気持ちはものすごくわかるのだが、それでも手間ひまかけた和食が絶滅するのも、やっぱり少し寂しいように思う。