外構に続く仮想動線

 五月である。新緑の季節である。朝起きて、ダイニングキッチンで朝食を食べてリビングに向かう。ダイニングキッチンからリビングに続くドアなしのドア枠をくぐる。朝日を浴びて輝く緑の葉っぱをつけたアオダモが、リビングの掃き出し窓の窓枠いっぱいに広がる様子が目に飛び込んでくる。そのまま掃き出し窓に近づくと、花を終えたアオダモの奥のジューンベリーが見えてくる。


 間取りを考えるとき生活動線のほかに、景観動線も意識した。ドア枠、掃き出し窓、手前の植栽、奥の植栽が、大きな弧を描くように仮想的な動線を作ったのだ。公園や商業施設でプロムナードに曲線を使う手法と同じだ。掃き出し窓から地面までは段差があるので、実際に掃き出し窓から外構へ足を踏み出すことはない。ダイニングキッチンからリビングに移動するときに目で辿るだけの仮想動線だ。


 おうちで過ごす時間が長い今、こんな工夫をしておいたおかげで新緑の木立の中に散策に出かける気分だけは味わえる。