お正月

 猛吹雪で新年を迎える。


 百均で買った松飾は、軽くて、玄関にマグネットでつけても風で吹き飛ぶのでしまっておいた。


 輪通しとか松飾とかの、一夜飾りは忌み嫌われる。もともと、水屋、台所、風呂、トイレは、独立した建物で、母屋の外にあった。輪通しは、その安全点検を終えた目印である。そして最後に、家全体の安全点検が終わったら、松飾をつける。点検責任者は、輪番制で、12年に一度回ってくる。それが、年男だ。安全点検は、前の晩にあわててするようなものではない。だから、一夜飾りは忌み嫌われのだ。


 今では、流しも、キッチンも、お風呂も、トイレも、ぜんぶ母屋の中だ。一戸建てなら、せいぜい庭の物置に、輪通しをつけるのが関の山だ。その手のモノは、お正月の季節感を味わうアイテムのひとつになった。


 吹雪が止むと、道路は雪かきの人でいっぱいになる。新年のご挨拶をしたり、されたりする。氏子を祭る町内の神社から、お札や破魔矢が届く。洋室にするかどうか悩んだ和室の床の間に、鏡餅といっしょに飾る。お雑煮をお供えして、無事に新年を迎えることができました、と柏手を打つ。


 一月二日は、雪かき三昧。それでも、直接ご挨拶できない人へ、年賀状を書く。書初めみたいなものだ。パソコンばかり使っていて、漢字を忘れていることに気づく。書く力が衰えて、書き損じばかりである。年一度のリハビリだと思って、手書きにこだわってみる。このコロナで、県外移動がなくなり、同じ日本なのに、みな遠い外国のように感じるようになった。手書きの年賀状をいただくと、生きていると知れるだけで幸せなのだと実感する。


 二日の晩は、良い初夢が見られるようにと枕の下におまじないを書いた紙をしいて寝る。


 「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」


 亡き祖父から教わったおまじない。ネットで調べたら、室町時代からの風習らしい。


 そして迎えた三日目の朝。初夢は、やたら美しいものだった、としか覚えていない。細かいところは忘れてしまった。


 朝のほんのひととき、さあっと日が差して、青空が広がった。輝くばかりの銀世界。すぐにどんよりとした曇り空に戻った。


 美しいものは、儚い。


 タレルガの「夢」と言う曲が思い出された。




Sueno Tarrega 夢/ターレガ ギターソロ タブ譜と楽譜で弾ける


 あけまして、おめでとうございます。


 素敵な年になりますように。